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2017年12月27日水曜日

映画評 東ティモールを観る 『バリボ』『母なる祖国』『裸足の夢』

某団体の会報に寄稿した映画評。これもいつだったか忘れている...4、5年くらい前か?

三本の中で文句なしの傑作は『裸足の夢』、東ティモール人にこの映画の感想を聞いたことはまだないが、きっと多くの人に愛されている映画ではないかと思う。

下記の評ではあえて書かなかったが、何度観ても泣いてしまう場面がある。


自分の将来に絶望した少年が盗みを働き警察に捕まる。
激怒し殴打する兄、呆然とするキム監督。
少年の絶望の深さに障がい者の兄は被害者の白人に土下座(!)して許しを請う。「俺が働いて必ずお金は返します」

一方、彼と険悪だった仲のキムはなけなしの現金を全て彼に渡す。
「無理してんじゃねーよ。」
そして少年に一言「悪かった。」

キムは自分の夢だけでなく少年たちの夢も捨てて韓国へ戻るつもりだったのだ。

警察署を出たキムの前で待っていたのはサッカー少年たち。
「キム監督、帰らないで!」
兄のサッカー練習をずっと見ていた幼女も「お願い、帰らないで」と消え入りそうな声を出して懇願する。

キム、声を出さず、ただ幼女を抱きかかえる。
「俺が間違っていた、もう一度やり直そう。」
(→こんな台詞、実はないが、私には聞こえました!)


あの国が今も抱えている貧困問題を象徴する場面だが、ダメ男の主人公を再起させるだけのパワフルな素晴らしいシーンでもある。ここを観るだけでも大いに価値のある作品です。


ぶくぶくニンジャ 
東ティモールを観る
『Balibo』 オーストラリア映画  2009年公開 Robert Connolly 監督 
『Tanah Air Beta』 インドネシア映画 2010年公開 Ari Sihasale 監督 
『A Barefoot Dream』 韓国映画 2010年公開 Kim Tae-Gyun 監督


 2012年5月、東ティモールは主権回復10周年を迎えた。99年の住民投票前後と国連による暫定統治の時期は国際社会の注目を集めメディアによる報道も盛んだったものの、主権回復後は2005年の騒乱時期を除けば国際的なニュースになることは少なくなった。しかし、国家建設の途上にある東ティモールにはいまだ様々な問題が山積しており、インドネシア時代の人権侵害事件や難民問題など未解決のものが少なくない。今回は東ティモールを理解するうえで参考になると思われる劇映画を3本まとめて紹介したい。

 豪映画『Balibo』はタイトルが明示するように、インドネシア軍が東ティモールへ侵攻する直前にバリボで豪州TV局所属のジャーナリスト5人を殺害したとされる「バリボ事件」を映画化したもの。主人公は若きジョゼ・ラモス=ホルタ(前大統領)とベテランジャーナリストのロジャー・イースト(インドネシア軍によるディリ侵攻時に死亡)。二人がバリボ事件の真相を求めて時に反目しながらも道中を共にする。彼らがバリボで見つけたものは何だったのか。そして首都ディリに迫り来るインドネシア軍に対して彼らが取った行動は...

 本作は2009年のジャカルタ国際映画祭においてインドネシア外務省の抗議で上映禁止となった「問題作」である。理由はジャーナリスト5人を殺害し焼却したのがインドネシア軍との描写があるためで、「5人は戦闘に巻き込まれて偶発的に死亡した」との見解を変えていないインドネシア側としては受け入れられないからだろう。しかし、この映画はあくまで劇映画であってドキュメンタリーではない。主人公二人は人格高潔な英雄というより結構だらしないところもあったりして、いわゆるプロパガンダ映画ではない。問題となった殺害場面にしてもカメラの視点はロジャー・イーストの想像(妄想?)であることははっきり描写されており、「これが事実だ!」という押し付けがましさはあまり感じられない。映画の見方がわからないインドネシア外務省の過剰反応だが、上映禁止措置がニュースになったおかげなのか、海賊版DVDがジャカルタの露店に並び、誰でも見られるようになったことはなんとも皮肉。この点DVD鑑賞をした私のような人間はインドネシア外務省にむしろ感謝すべきなのかもしれない。

 結末のわかっている作品ではあるが、バリボ事件を風化させないという強い意志が作品全体からは感じられ、この点東ティモールに関心のある人にとっては見て損のない映画と言える。

 2本目のインドネシア映画『Tanah Air Beta』は児童向け愛国映画を毎年学年末休みの6月に公開しているアレーナ・ピクチャーズによる製作。主人公は99年の住民投票後にインドネシア領西ティモールへ避難した少女メリーと母タティアナ。同様の境遇の人たちと共に避難民キャンプで暮らす。タティアナは学校の教師として働きながら、東ティモールに残留しているメリーの兄マウロとの国境での再会を人道支援ボランティアに依頼中。ある日タティアナが倒れたことをきっかけにメリーは兄に会うため一人で国境へ向かう。はたして離散した家族は再会できるのか?

 いわゆる家族愛がテーマなので、誰でも安心してみられる分、映画としては非常に凡庸な出来である。理由はいくつかある。ひとつには何故東ティモールがインドネシアから「分離」したのか、何故離散家族が発生したのか、その背景を全く描いていないため。インドネシア国軍が撮影に協力したと思われる場面が終盤にあるので、政治的な要素は製作者側が描きたくても無理だったのかもしれないが、劣悪な避難民キャンプを舞台とするだけで離散家族の悲劇を語るのは説得力に欠ける。インドネシア残留者の多くが元併合派民兵とその家族である事実を隠しているようでもある。また、映画としての細部が少々雑で、石鹸メーカーがスポンサーゆえの何回も挿入される手洗い場面はご愛嬌としても、メリーが国境へ向かう道中での食事シーンなどはどうやって食材や薪を入手して調理したの?と子供でもツッコミを入れたくなるほど。国境目指して歩く場面はティモールの乾燥した広大な風景をバックとしており、イメージとして悪くないが、いかんせん脚本全体が弱く、終盤も盛り上がりに欠ける。ただし、製作者の意図は東ティモール難民の窮状をインドネシア国民に広く知らしめることにあったようで、その点から見れば本作は成功しているかもしれない。

 3本目の『A Barefoot Dream』(映画祭での題名は『裸足の夢』)はインドネシア、東ティモール、そして日本を舞台とした韓国映画である。監督は学園アクションもの『火山高』や脱北者家族を描いた『クロッシング』で日本でも知られているキム・テジュン。結論から先に書くと、本作は今回紹介した3本の中でダントツに優れておりサッカーファンや映画ファンのみならず多くの人に感動作として強く推したい。

 主人公は元サッカー選手のキム・ウォンガン。プロを引退した彼は一攫千金を求めてインドネシアで怪しい事業に足を突っ込むも失敗ばかり。ひょんなことから東ティモールへ渡ったキムはサッカーに熱中する少年たちを見てスポーツ洋品店を開きサッカー教室を始める。指導料として一人1ドルをせしめる、なんともセコい主人公。しかし東ティモールの複雑な国内事情、すなわち元併合派と独立派の対立や慢性的な貧困失業問題が、サッカー教室の少年たちの関係にも影をさす。一旦は東ティモールを去る決断をしたキムだったが、自分を見つめなおし少年たちと共に日本で開催される少年サッカー大会への出場を目指して再奮起する。キムと少年たちの夢はかなうのか?

 優れた映画はオープニングからわかるというが、本作も例外ではない。主人公の性格と状況を的確かつ簡潔に描写し東ティモールへ舞台が移る序盤から観客は本作に引き込まれること間違いなし。とりわけ主人公の造形がいい。楽天的でお調子者、カネ儲けは大好きだが商才はなし、でもサッカーは飯より大好きというサッカー馬鹿。全くもって品行方正ではないが憎めない、だらしない主人公ゆえ容易に感情移入しやく、それゆえ彼がある決意をして友人に告白する場面は実に感動的であり、自己再生の物語として見事に成功している。

 また観客は東ティモールの事情に全く通じていなくても、主人公の目を通して国内対立や恒常的な貧困などを理解できる物語構成となっている。東ティモールに短期滞在した経験のある評者から見ても本作は細部がしっかりしており、東ティモールを理解する上で格好のテキストだと思う。東ティモールが抱える問題は紛争終結後の国々が抱える共通の問題であり、本作が国連本部で上映され賞賛を受けたというのも納得できる完成度の高さである。

 なお、本作は実話を元にしており、またシャナナ・グスマオ首相(撮影当時)も特別出演している。詳細は日本人スタッフ藤本信介さんによる以下のブログを参照していただきたい。

http://blogs.yahoo.co.jp/shingenolza79/folder/1788433.html

<更新履歴>
2017.12.28  ラベル追加



  

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